ぼくのドワンゴ戦争

おまえはそれでいいのか?

わざわざ就職をやりなおしたのには,あたりまえだけど理由がある。すごく簡単に言うなら,「挑戦するため」だ。やっぱり内定を蹴って就職活動を再開するなんていうことをやってしまうと,「自分探し」とか「考えが甘い」とか「考えすぎ」とか「親への負担を考えろ」とかいったような,そういう批判ってのは免れないのだけど,ぼくはそういう人間だから自分ではあきらめている。これまでも「こうしたい」という自分の欲望に他人を無理につきあわせてきた(それでも協力してくれるひとがいるのが,ぼくのいいところだ。「暴君」と言われることもあるけれど,まじめに取り組まなければいけないと感じさせてしまうような強制力というのがぼくにはあるらしい)し,たぶんこれからもそうだろう。
それでも,父が「おまえはそれでいいのか?やれるところまで挑戦しなきゃだめだ」と言ってくれなかったら,あるいは祖父が「おまえはやりたいことをやらないとだめになる」と言ってくれなかったら,こういう行動はとらなかったと思う。家族がぼくのことをよく知っていてくれているというのは,ほんとうにありがたいことだと感じている。

おまえはなにがしたいの?

ぼくがやりたいことは,「作品として映像をつくる」ことをもっと身近なものにする,写真や音楽を趣味としているひとと同じくらい,もしくは,そして,おそらくそれ以上に,することだ。映像づくりのノウハウを共有する仕組みづくりをやるのがいいと思う。これまでは,結婚式とか運動会とかそういうレベルを超えた「作品」のレベルで映像をつくるということはやはりコスト面での負担が大きすぎて,趣味としてはなかなか広がっていかなかった。たとえば,書店などに行けば,それは簡単にわかる。写真撮影や演奏を扱う雑誌とくらべて,映像制作を扱う雑誌というのはとても少ない。
だけど,これからは違う。「趣味の映像制作」をメジャーなものとして成立させる条件というのは,すでにここ数年で揃ってしまっていて,あとは中身をつくっていくだけというところまできているからだ。ぼくは大学時代,映像制作サークル*1の運営に携わっていたのだけれど,そのあいだの環境の変化というのはものすごいものがあった。ぼくは,サークルを率いて制作会社を交えたコンペに勝ち,長期にわたるイベントの演出という仕事を受けたことがあるし,そこで手がけたプロモーションビデオはNHK で(ちょっとだけど)放映されたりもした。そういうことがそのへんの学生でも可能になるくらい,状況は劇的に変化した。Sony DCR-VX2000 や Panasonic AG-DVX100 みたいなカメラの価格はいまでも安いとは言えないけれど,HDハンディカムだっていまではなかなかの性能だし,ノートパソコンでストレスがない編集(HDでも!)が可能になった。AdobeApple の製品もずいぶん安くなった。
ぼくは,映像メディアの使い方を効果的に広めていきたい。20世紀は「映像の世紀」とか,「メディアの世紀」とか呼ばれることがある*2。21世紀は,そういう意味では「民衆がメディアを取り戻す」世紀になるのだろう。そのなかで,やっぱり映像メディアは大きな意味を持つのだろうと思う。認知的な意味でも感情的な意味でも,視覚の優位性,影響力というのには,ほんとうにすさまじいものがある。誰もがそういうものにアクセスできるようにすることは,すごくおもしろくて,意味のあることだと思う。明治時代に新聞をつくったり,日本文学をつくったりすること,1950年台に,テレビ局を立ちあげることと同じくらいに。
そのためには,ドワンゴニコニコ動画のために働くというのが一番いいと思う。だから,なんだったらタイトルを「ドワンゴへの道」にしたいくらいだ。それがかなわなければ,とにかく目的の役に立つ力*3をつけられそうな仕事か,自由になる時間がある仕事を見つける必要がある。さすがに「将来はドワンゴに入社したいので,そのための勉強をしにきました!」なんてバカなことを言ったりはしないけれど*4
一つの表現ジャンルをつくりあげる,そういう動きに加わりたいというのは,ぼくにとって,文豪に憧れていた幼いころからの目標だった。いまのサークルを選んだ*5のも,映像が家庭にあるコンピュータで扱えるようになることで映像文化がおおきく変化する,そこにチャンスがあるだろうと考えたからだった。ぼくは大学時代,そういうことをずっと主張しつづけて,支持されたり迷惑がられたりしてきたけれど,幸運もあって,それなりの成果をあげることができた。「社会はそんなに甘くない」だろうけれど,欲と熱意と闘争心(とくに欲)だけは失わずに生きていきたい。

*1:VJと自主映画を活動の中心としている。

*2:とくにその後半は「放送の時代」だった。

*3:サークルで運営に携わるようになるまでは,映画の現場に入ったりしていた。

*4:ぼくは「純粋まっすぐ君」だけど,だからこそ,建前を身に纏うことはすごく大事だ。

*5:サークルに入るために大学を選んだくらいだったりもする。